遭難した夜は【八丈島・東京】

2021年 秋

 

- 失敗 

  これはうまくいかない
  ということを確認した成功

 

- トーマス・エジソン

 

 

人生には時々予期せぬことが訪れる。

前回の記事で八丈富士のカルデラの頂上の淵を歩くお鉢回りをお伝えしたが、この山にはお鉢回り以外にも歩ける場所がある。頂上に登ったあと、カルデラの中に降りると、右が神社に行く道、左が河口付近に行く道へと続く。

 

お鉢回りの終わりに休憩していたら、神社側に行く人達がいたので、すぐ後について行ってお邪魔するのも気が引けて、反対の河口付近に進んだ。10~15分くらい歩いただろうか、その道はずっと一本道だった。

 

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初めて見かけた道しるべのすぐ後、続く先は相変わらず一本だったが蜘蛛の巣に覆われていた。そこでこれ以上進むべきでないと気が付いた。そこに人が長らく立ち入っていないということだから。

 

目的地にたどり着けないのは残念だったが、安全を優先して引き返すことにした。引き返した道は途中まで正しかった。来た時に見かけたペットボトルのごみを拾ったから。

 

その後どこをどう間違えたのであろうか。一本道を進んでいるはずで、赤いテープを見たなのに、完全に帰路を見失った。気づいた時に元の道に戻ろうと引き返したつもりだったが、ドツボにはまった。完全に方向感覚を失い、足を何度が踏み外し、浅い泥沼にも2回ハマり、少しパニックになったと思う。ウロウロしている間に時間も昼下がりになってしまった。スマホを見ても電波はない。インターネットはもちろん使えない。

 

遠目にカルデラ内側の山腹が見えたので上って景色を確認することにした。が、登れど自分がどこにいるのか全く分からなかった。声を出しても誰も周囲にはいないようだった。そこでふと、お鉢回りの入り口のみ・カルデラの淵の上で電波が入っていたことを思い出した。遭難したら頂上へ、の鉄則にもあっている。運が良ければお鉢回りまで戻ることができるかもしれない。結局ひたすら山頂へ登ることにした。

 

崖をつかむように上がり山頂あと10mくらいまで登ったところで、膨らんだ崖になってしまった。草は生えていたのでつかめば登れる可能性は0ではなかったが、リスクはかなりある。打ち所が悪くないなら落ちても死にはしないだろうが、大けがになる可能性はある。仕方がないので斜め上の膨らんでいないところへ行こうと3mくらい進んだところで気が付いた。草に覆われた先は下に足場がない。こちらも落ちれば10mくらい崖を真っ逆さまだ。

 

ここまで、自転車で山を登り、お鉢回りを終え、道に迷いウロウロして、崖を登り体力を消耗していた。短時間の散策のつもりで出たため軽装なうえ、食事なども持っていなかった。下手にこれ以上動き回れば水も飲みほしてしまうかもしれない。夕刻も近づいており、ここからなんとか降りてまた道を探すにしても暗くなるまでに下山は難しいように思えた。

 

登った山は自力で降りなければいけないので、この山腹で一夜を過ごす覚悟を決めた。決めるのは一瞬だった。しかし、その夜はとても長く感じた。観光地だから人翌日人が来るのではないか、少なくとも3日後にはチェックアウトの予定だからその頃には誰か気が付くだろうと期待したのだ。

 

星が見え、虫が鳴いてはほっとし、霧が濃くなり冷たい風が吹いては雨に降られないように祈りつつ、合羽の中にできるだけ丸まりながら山肌とリュックで外気に触れないようにして過ごした。次の日は雨の予定ったとのを思い出し、軽い雨が降るたびゾッとした。合羽も持っていたのは本当に幸運だった。薄いビニール1枚でかなり体温を温存できた。

 

夜が明けるとかなり濃いガス(霧)で視界がかなり曇っていた。やはりこの後雨の説が濃厚だ。少し心が折れそうになったが、まだ早朝に朝霧の中、遠くの方から女性の笑い声が聞こえた。

15m先ですら、くすむほどの霧の濃い中、登ってきた人たちがいたのだ。

思い切って大声で助けを求め、救助を呼んでもらった。

 

20人くらいの人が助けに来てくれたのではなかろうか、幸い午前10時頃には救助の方々と自分の足で下山を完了することができた。その後、警察の勧めで病院で受診したが、異常はなく、点滴も途中でストップ。バカは風邪をひかないというが、このことかもしれない。

 

後に警察をつうじて助けを呼んで頂いた女性とも連絡が取れ、簡単なお礼をした。

年齢が近いこともあり、連絡を取り合う友人になれた。なんと不思議な縁だろう。なんとも有難い。

 

救助の人も病院の人も、こんな迷惑な客へ「残り楽しんでいってください」「これに懲りずにまた遊びにきてね」と優しい声をかけてくれた。こんな心の温かい人々に守られている八丈島の方々はとても幸運だと思う。

 

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山頂からの写真

 

色々やらかしてきている私だがここまで大勢の人を巻き込みご迷惑をかけたのは初めてだ。こういうのは「まさか自分が」というのをよくテレビで見たが、まさにその思いだった。後で分かったのだが、神社へは10分程度の道、しかし反対の河口は1本道でもこういうことが時折あるからガイドが必要だったそう。

 

どうぞ皆さんは、しっかりと下調べをして安全に旅してください。

 

 

八丈島の旅のインデックス

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